子供のころに聞いた怖い話

[怪談]天井の老婆

七歳までは神の内と言う言葉がある通り、
乳幼児というものは死に易いものである。
そのぐらいの子供を持つ母親の気苦労を思うと
彼女らに対して尊敬の念を禁じ得ない。
子供が入院した母親ともなるとその気苦労も弥増しになるのだろう。
これはそんなある母親から聞いた話である。
 
その母親の子供はけがが絶えなかったらしい。
別に親が虐待しているというわけではなく、
子供の好奇心故らしい。
たとえば階段から飛ぶときに何段目まできれいに着地できるかとか、
道路を横断するときにどこまで車が迫ってもぶつからないで渡れるかとか、
後ろ向きに走ってどれだけまっすぐ走れるかとか、
危ないことを危ないと思わずに検証していたらしい。
その日病院に入るようなけがをした時も
目をつむって学校から家に帰れるかを検証していたらしい。
 
その日病院ではたまたま個室しか空いていなかったので個室に入ることになったらしい。
心細かろうと、その日母親は一緒の病室で寝たらしい。
夜遅く唸り声が聞こえたらしい。
子供を見ると瞼を開けて唸りながら寝ていたらしい。
わが子ながら気色悪いと思いながら視線の先をたどると
天井があるほか何も見えない。
天井にしゃべりかけると寿命が縮むという迷信を信じていた彼女は、
わが子を横向きに寝かせ、眠りについた。
その夜彼女は夢を見た。
その病室の天井には老婆が張り付いていた。
何とも気色悪い笑い顔でこちらを向いている。
夢の中なのか金縛りにかかったみたいに体が動かせない。
眼だけでもそらそうと思ったのだがそれもできない。
老婆は笑い声をあげながらこう言ったと言う。
「また馬鹿な事をしたもんだねぇ。そんなにわしに会いたかったのかい。
本当にお前は馬鹿だねぇ」
 
ちょうどその時自分を呼ぶ子供の声で目覚めたらしい。
検査の結果も良好で入った翌日に出ることができたらしい。
その後その子供はいまだに馬鹿なことを検証しているが、
さすがに懲りたのかけがをする前に検証を途中でやめるようになったらしい。
その母親はひょっとしたらその時の夢は子供が見た夢で、
老婆に会いたくないからけがをしないうちに検証を断念するようになったのではと言っていた。

[怪談][簡素版]天井の老婆 簡素版

ある母親が子供の入院時に天井で老婆が笑う夢を見た。
らしい。